クエン酸の無水と結晶の違いを解説&実験【化学的には別の物質】
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化学的には、クエン酸には無水物(無水)と一水和物(結晶)の2種類があります。一口に「クエン酸」といっても、この2種類は厳密には別の物質なのです。
この記事では、有機化学の知識を持つ筆者が、無水と結晶のクエン酸の違いを実験などを交えつつ丁寧に解説します。
また、無水と結晶の重さと価格からお買い得な方を判別したり、無水と結晶の重量を相互に換算したりできる計算ツールも本ページに設置しています。
化学的には無水と結晶(水和物)の2種類のクエン酸がある
クエン酸には、「クエン酸無水物」と「クエン酸一水和物」の2種類の物質があります。各クエン酸の、食品添加物公定書と日本薬局方での名称は下表のとおりです。
- クエン酸の種類と名称
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クエン酸の種類 クエン酸無水物 クエン酸一水和物 化学式 C6H8O7 C6H8O7・H2O モル質量
(g/mol)192.12 210.14 食品添加物
としての名称クエン酸(無水) クエン酸(結晶) 日本薬局方
での名称無水クエン酸 クエン酸水和物
この記事では主に、食品添加物での「クエン酸(無水)」と「クエン酸(結晶)」という名称を使って、2種類のクエン酸の違いを解説します。
本記事の序盤では、両者の化学的な違いを概説します。
クエン酸の「無水と結晶の違い」は固体における水分子の有無
上図は、クエン酸の構造式です。すべてのクエン酸分子は、上図に示した分子構造を有します。
クエン酸(無水)として販売されている「無水クエン酸」は、このクエン酸分子のみでできた固体です。
一方、クエン酸(結晶)として販売されている「クエン酸一水和物」は、クエン酸1分子あたり、水1分子をともなってできた固体です。
このように、水和物の結晶の構成成分として取り込まれている水分子を水和水(もしくは結晶水)と呼びます。
水和水は、クエン酸と弱い結合をして固体に取り込まれていますが、水に溶かす際にはバラバラになります。
水溶液にすれば、溶かすために加えた水の分子も、元は水和水だった水の分子も、もはや区別が付きません。
また、化学では、水和物に含まれる水分子を不純物とは見なしません。「クエン酸一水和物」という純粋な物質として、「無水クエン酸」とは別の物質と分類されます。
クエン酸一水和物に対して、食品添加物公定書で定められた「クエン酸(結晶)」という名称は、あくまで食品添加物としての名称です。
化学的性質としては、どちらのクエン酸も結晶性の固体です。
ややこしいですが、食品添加物としての名称を使って化学の話をするなら、「クエン酸(無水)の結晶」も「クエン酸(結晶)の結晶」も、どちらも存在します。
クエン酸(結晶)は、重さの1割近くが水
一水和物であるクエン酸(結晶)の固体は、クエン酸分子と水分子により構成されており、その分子数比は1:1です。クエン酸(結晶)は、全体の重さの8.57%ほどを水分子が占めています。下に、重量比での組成を図示します。
含まれるクエン酸分子の重さで考えると、クエン酸(結晶)1kgは、クエン酸(無水)914gほどに相当します。
同じ重さで同じ価格なら、結晶よりも無水のクエン酸がお得です。(重さや価格が異なる場合、本ページ下部にあるツールで比較・判別できます。)
また、クエン酸(結晶)の水和水は水に溶かしたときの濃度にも影響します。例えば、クエン酸10gを90gの水で溶かして100gにした場合、下の画像のようになります。クエン酸濃度は計算上、無水から調製すると10%ですが、結晶から調製すると9.14%です。このように、同じ分量で水溶液を作っても、クエン酸の種類により濃度が多少異なります。
クエン酸(結晶)を用いて特定の濃度の水溶液を作る場合、水和水の重さを考慮した量を溶かす必要があります。
無水と結晶のクエン酸の外見の違い
クエン酸の無水と結晶では、見た目が異なります。ただし、製品によって同じ物質でも形状が異なる場合もあります。また、見慣れていないと両者の違いは分かりにくいです。
参考までに、それぞれのクエン酸のマクロ撮影写真を掲載しておきます。
より確実に無水と結晶のクエン酸を判別するには、融点の違いを利用するのがおすすめです。その方法や手順は後の章で解説しています。
クエン酸の選び方は?無水と結晶はどっちがいい?
クエン酸は、(食用に使うなら食品添加物に限定したうえで)基本的には安いものを選べばよいと思います。とはいえ、数多くの商品から選ぶのは大変なので、失敗の少ないジャンルを示しておきます。
結論としては、食品添加物のクエン酸(無水)から選ぶのがおすすめです。
- 食品添加物のクエン酸(無水)がおすすめな理由
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- 比較的安価に入手しやすい
(掃除用より割安なことも多い) - 食用にも使える
- 結晶より固まりにくい
- 重量の全てがクエン酸なので物流・保管コストの面で多少優れる
(結晶は重量の9%近くが水) - 使用量や濃度をきっちり計算したい場合に結晶だと計算が複雑
- そもそも掃除用だと無水か結晶か表記がない場合が多い
- 比較的安価に入手しやすい
掃除や清掃にも、食品添加物のクエン酸を使って問題ありません。
食品添加物でも掃除用でも、同じ物質である以上、性質も同じです。「掃除用」と印刷されたパッケージに詰められた瞬間、掃除に適した性質に変わるわけではないのです。
掃除用と食品添加物のクエン酸の違いは、別の記事で詳しく解説しています。
比較的安価でおすすめのクエン酸(食品添加物の無水クエン酸)を、下にいくつか掲載します。
- 無水クエン酸 1kg (食品添加物規格) NICHIGA (ニチガ)
- Amazon 楽天 Yahoo!
- クエン酸(無水)1kg 食品添加物 marugo (マルゴ)
- Amazon Yahoo!
- クエン酸 500g(食品添加物) 大洋製薬
- Amazon 楽天 Yahoo!
いくぶん割
ただし、1kgなどの大容量でなく、少量の製品では、掃除用の方が安い傾向にあります。少量でよい場合は、掃除用のクエン酸や100均のクエン酸なども検討するとよいでしょう。
クエン酸の無水と結晶の違いにまつわる実験をしてみた!
クエン酸の無水と結晶(一水和物)は異なる物質であり、物理的・化学的性質も当然ながら異なります。
この章では、2種類のクエン酸の性質の違いに関係する「2つの実験」を行います。
実験1 融点の違いで無水と結晶のクエン酸を判別
手元にあるクエン酸が無水か結晶か不明の場合、両者の融点の違いを利用すると、家庭でも見分けることが可能です。固体のクエン酸のほか、下の3つを使います。
無水物の融点153℃に対し、結晶(一水和物)のクエン酸はちょうど100℃の融点を持つので、沸騰水上での加熱でも融けることを利用します。
お湯を沸騰させながら行うので、真似する際は、やけどなどに十分注意してください。
- クエン酸の無水と結晶(一水和物)を判別する方法
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- 鍋に、あふれない程度に多めのお湯を沸騰させた後、火力を弱めて穏やかに沸騰させておく。
- スプーンの中央に、少量のクエン酸の固体を乗せる。
(多すぎると融けたか分かりにくい。少量を薄く広げるように乗せる。) - スプーン中に直接お湯が流れ込まないよう注意深く、お湯の水面に、スプーンの背(下部)を接触させる。
- クエン酸一水和物(結晶)なら、数秒のうちに固体が融ける。無水クエン酸なら、10秒以上経っても一向に融ける気配がない。
この方法で、実際にクエン酸(結晶)を融かしてみました。
クエン酸の種類が不明でも、この方法で融ければクエン酸(結晶)、融けなければクエン酸(無水)と推定できます。
標高の高い地点では、水の沸点が100℃に満たず、この方法が上手く機能しない可能性があります。
そうした場合、濃厚な食塩水を使えば、沸点を上げられます。大まかな目安としては、食塩の濃度が5%高まるごとに、沸点が1℃程度上昇します。
例えば標高1000m地点では、真水の沸点は97℃を下回ることが多いですが(気象条件でも変動)、約20%の食塩水を沸騰させれば、おそらく100℃以上になるはずです。
実験2 クエン酸を風解・潮解させてみた
クエン酸(結晶)は水和水を持っており、乾燥した空気中で風解します。また、無水と結晶のどちらのクエン酸も、潮解性があり、湿った空気から水を吸収します。
そこで、ビーカーに入れたクエン酸を以下の条件で放置し、風解、または潮解させました。
- クエン酸の風解と潮解の実験内容
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- 風解
- 大型のビーカーに、クエン酸を入れた小型ビーカーと乾燥剤を入れ、2枚の厚手のビニール袋で二重に密封して1ヶ月間放置(結晶のみで実験)。
- 潮解
- 1cm程度の深さの水を張った大きなタッパーにクエン酸の入ったビーカーを入れ、フタをして1ヶ月間放置(無水と結晶で実験)。
1ヶ月間放置した後、クエン酸の変化を観察しました。また、クエン酸が保管中に固まる理由として、湿気が原因とする情報も、乾燥が原因とする情報もあったので、潮解と風解のどちらが固まる原因か真相を確かめました。
その結果、次のような知見が得られました。
- クエン酸の「乾燥による風解」について
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- クエン酸(結晶)は乾燥した空気中で風解するが、固まりにはならずサラサラの状態のまま。
- クエン酸(結晶)が風解すると、白く不透明となり、見た目が大きく変化する。
- クエン酸の「湿気による潮解」について
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- クエン酸は無水も結晶も、簡単に実験で確認できる程度に潮解性がある。
- クエン酸は、潮解すると固まりやすい。湿気による潮解が、保管中にクエン酸が固まる原因。
- 同条件でクエン酸を潮解させると、結晶の方が無水よりも早く、水溶液でひたひたの状態になる。ただし、同条件での吸湿量は、無水と結晶で大差は無い。
順に、それぞれの実験の結果を詳しく掲載します。
クエン酸(結晶)は乾燥による風解で白く不透明になる
乾燥剤(シリカゲル)の存在下に風解させたクエン酸(結晶)は、元とは外観が大きく異なる、白く不透明な固体になりました。ただし、風解しても固まることはなく、サラサラの状態でした。
クエン酸は湿気で潮解して固まったり水溶液になったりする
クエン酸を湿った空気中に保管すると、徐々に潮解します。空気中に水蒸気として存在する水分子を取り込んで、固体表面から徐々に溶けて飽和水溶液となっていくのです。
潮解が進行すると、固体表面が湿るだけに留まらず、固体が溶液に浸るような状態になります。さらに進行すれば、いずれ全ての固体が溶けて水溶液となります。
保管中にクエン酸が固まる原因は、湿った空気中での潮解です。
クエン酸(無水)の方は、ビーカーを逆さにしてもこぼれないほどに固まっていました。
クエン酸(結晶)の方も、吸湿して溶液に浸る状態でありながら、固体の部分を掻き出すとかなり固めのシャーベット状でした。
今回の潮解の実験では、見た目ではクエン酸(結晶)の方が、より潮解が進んだように見えます。しかし、重量の増加率としては下表のとおり、無水の方がいくぶん多くの水を取り込んでいました。
- 潮解させたクエン酸(無水と結晶)の重量変化
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クエン酸
(無水)潮解前 30.00g 潮解後 34.87g 重量増加率 +16.2% クエン酸
(結晶)潮解前 30.00g 潮解後 34.45g 重量増加率 +14.8%
水和物であるクエン酸(結晶)は、もともと結晶中にある水和水も、吸湿した水とともに水溶液を作り出します。このため、無水物より若干少ない吸湿量でも、より多くの水溶液が生じたと考えられます。
クエン酸(結晶)とクエン酸(無水)の換算・計算ツール
クエン酸の無水と結晶で、同じ物質量(同じ分子数)のクエン酸を含むように重さを換算したり、購入時にお得な方を判断したりするには、物質量(モル)の計算が必要です。結晶の方は、前述のとおり、水分子が含まれるためです。
そこで本ページには、筆者が作成した3つの計算ツールを設置しており、誰でも簡単に計算ができます。ぜひ、ご活用ください。
- 使い方・注意点
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- 数値は、半角数字で入力してください。整数だけでなく、小数も入力できます。数値入力後にボタンを押すと計算結果を表示します。
- JavaScriptが動作しない環境や、Internet Explorerなどの旧世代ブラウザでは使えません。
- 計算結果のスクリーンショットは、誰でも自由にウェブ媒体・SNS・動画等への掲載、引用が可能です。
⒈クエン酸の無水と結晶、お買い得な方を判別するツール
クエン酸(結晶)は、クエン酸1分子につき水1分子を含みます。そのため、クエン酸の無水と結晶では、同重量で同価格なら、無水の方がお買い得です。
重さや価格が異なる場合、お得な方を判断するには、物質量(モル数)を考慮した計算が必要です。
この計算ツールは、無水と結晶それぞれの内容量(グラム)と価格を入力すると、1モルあたりの価格を計算して割安な方を自動で判別し、文章と棒グラフで結果を出力します。
このプログラムは消費税を考慮せずに計算を行います。2つの商品の価格は、税込みか税抜きか、どちらかに統一して入力してください。
で
クエン酸(結晶):
で
⒉クエン酸(無水)◯gを、クエン酸(結晶)の重さに換算するツール
クエン酸(無水)の重さを入力すると、等しい物質量(等しいクエン酸分子の数)を含むクエン酸(結晶)の重さを計算します。
⒊クエン酸(結晶)◯gを、クエン酸(無水)の重さに換算するツール
クエン酸(結晶)の重さを入力すると、等しい物質量(等しいクエン酸分子の数)を含むクエン酸(無水)の重さを計算します。
まとめ・参考文献
クエン酸には、無水と結晶(一水和物)があります。両者は異なる物質であり、異なる性質を示します。もっとも、性質が異なるのは固体の話であり、水に溶かした後は、同じ濃度にすれば全く同じ性質を示します。
また、水和水を含むかどうかで、同じ重さあたりにどれだけのクエン酸(クエン酸分子)を含むかも変わります。2種類のクエン酸の価格は、同じ内容量であっても単純比較ができないことに注意が必要です。