クエン酸の化学式・構造式や性質を詳しく解説
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クエン酸は酸味を持つ物質で、レモンなどの柑橘類に多く含まれるほか、食品添加物としても多用されます。安全性が高く、水垢などを落とす洗剤としても普及しました。
この記事では、クエン酸の化学式(構造式)や性質を解説します。
クエン酸とは?どんな物質か簡単に説明
クエン酸は「C6H8O7」の化学式で示される、酸の性質を持つ有機化合物です。工業的に大量生産される一方、天然に存在する物質でもあり、柑橘類などに豊富に含まれます。
純粋な物質として流通するクエン酸は主に、発酵を利用して工業生産されたものです。クロコウジカビ (Aspergillus niger) という微生物に、糖を分解させて作ります。
工業生産されたクエン酸の最たる用途は食品添加物です。すっきりした酸味を持つクエン酸は、清涼飲料水を中心に様々な飲食物に利用され、世界規模で大きな需要があります。
天然においても、多くの生物が作り出す物質です。クエン酸は、柑橘類などの植物に含まれるだけでなく、動物の体内にも存在します。
ヒトの体内にも「クエン酸回路(TCA回路)」という代謝経路があり、クエン酸は生化学的にも重要な役割を担っているのです。
クエン酸は、食品にも使える安全性の高さと、工業的生産による価格の安さから、掃除(いわゆるナチュラルクリーニング)にも多用されます。
クエン酸の名前の由来は?英語では?
クエン酸の「クエン」とは、レモンの近縁種である「シトロン」という植物のことで、漢字で「枸櫞」とも書きます。果実はレモンと同様に酸っぱく、砂糖漬けなどに加工されます。
シトロンは、日本では馴染みが薄いものの、地中海沿岸などで多く栽培される果実です。ヒマラヤ丘陵地帯を原産とし、紀元前に、中東や地中海地方へ最初に伝わった柑橘類と考えられています。
英語でクエン酸は、"citric acid"です。citricとは、「citrus(シトラス:柑橘類)の」という意味です。柑橘類に多く含まれる酸(acid)であることから名付けられました。西洋から伝わった物質名を訳す際、柑橘類「シトラス」を代表する果実「シトロン」の漢名から「枸櫞酸」としたのが、クエン酸の名前の由来です。
この経緯から、クエン酸という名前には、「柑橘類に含まれる酸」という意味合いがあります。
クエン酸の化学式(構造式)や性質など
この章では、クエン酸の化学式や性質を分かりやすく紹介します。
クエン酸の化学式【表記法別まとめ】
クエン酸の化学式(分子式・示性式・構造式)を下表にまとめます。構造式は、省略の程度別に3通り示しますが、いずれもクエン酸を表しています。
- クエン酸の化学式(様々な表記方法一覧)
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化学式の種類 化学式 分子式 C6H8O7 示性式 C(OH)(CH2COOH)2COOH 構造式① 構造式② 構造式③
3種類の化学式には、それぞれ特徴があり、目的に応じた使い分けを要します。
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分子式 C6H8O7 は、クエン酸分子を構成する原子の種類と数のみを示し、分子構造や性質は伝えられない化学式です。
構造式は分子構造、すなわち、原子の繋がり方を示す化学式です。図を使用することで、分子の構造や性質を、一番わかりやすく表現できます。
示性式 C(OH)(CH2COOH)2COOH は、分子構造を文字列で示した化学式です。分子の構造や性質を、図を使わず表せる一方、見やすさ・分かりやすさには欠けます。
示性式は、構造式の一種でもあります。
HOOC・CH2・COH・COOH・CH2COOH は間違った化学式
インターネット上では、クエン酸の化学式がHOOC・CH2・COH・COOH・CH2COOHだという情報も広まっており、数多くのウェブページに記載されています。これは、あまり適切な表記とは言えません。
一般的に化学式では、「・」(中点)を使って、分子間化合物を表します。分子間化合物とは、2種類以上の分子(や化学種)が、特定の比で、弱い結合により結びついてできた物質です。
代表的な分子間化合物には、種々の水和物があります。例えば、炭酸ナトリウムの無水物は「Na2CO3」ですが、炭酸ナトリウム一水和物は「Na2CO3・H2O」、十水和物なら「Na2CO3・10H2O」と表します。
このように「・」は、分子間の弱い結合を表すため、分子内の結合に用いるのは避けるべきです。
一般に示性式では、単結合は明記せずに省略します。また、枝分かれがある少々複雑な分子なら、丸括弧でくくったりして、工夫して示性式を表します。クエン酸の示性式は、「C(OH)(CH2COOH)2COOH」などと表記すべきです。
クエン酸はなぜ酸性?有機酸とは?化学式から解説
クエン酸は酸として働く物質であり、水溶液は酸性を示します。食品に含まれる場合の酸味も、掃除で水垢を溶かす作用も、クエン酸の酸としての性質が関わっています。
クエン酸の酸性は、クエン酸が有するカルボキシ基(-COOH)という部分構造に由来します。カルボキシ基は、水中で水素イオンを手放します。
酸性の水溶液とは、水素イオン(H+)の濃度が高い水溶液のことです。カルボキシ基が水素イオンを離すため、クエン酸水溶液は酸性を示します。
クエン酸や酢酸(CH3COOH)のように、カルボキシ基を持つ有機化合物は「カルボン酸」と呼ばれます。クエン酸のようにカルボキシ基を3つ持つ場合、トリカルボン酸とも呼ばれます(tri:ギリシャ語で「3つの」を意味する)。
酸である有機化合物は「有機酸」と総称され、その多くはカルボン酸です。
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「無水クエン酸」と「クエン酸一水和物」の違いは?
固体のクエン酸には、「無水物」と「一水和物」が存在します。
無水クエン酸とは、クエン酸分子のみでできた固体(化学式:C6H8O7)です。
クエン酸一水和物は、クエン酸1分子あたり、1分子の水(結晶水)がくっついた固体です。化学式では「C6H8O7・H2O」と表記されます。
無水クエン酸とクエン酸一水和物の違いは、「固体の状態で」水分子を含むかどうかです。水に溶ければ、どちらも同じくクエン酸水溶液になり、もはや違いはありません。
食品添加物としては、無水クエン酸とクエン酸一水和物はそれぞれ、「クエン酸(無水)」と「クエン酸(結晶)」と呼ばれます。
詳しい違いは別の記事で、実験を交えつつ丁寧に解説しています。
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「クエン酸ナトリウム」とは?
クエン酸は酸であり、アルカリで中和可能です。水酸化ナトリウムのようなアルカリで中和すると「クエン酸ナトリウム」が生成します。
食品添加物として多用され、その役割は、pH調整剤、調味料、キレート剤(食品劣化を早める金属イオンを補足する)、酸化防止剤などです。
クエン酸ナトリウムには、ナトリウムイオンが1~3個までと、3種類の組成があります。単に「クエン酸ナトリウム」と言った場合、ナトリウムイオンを3個もつ「クエン酸三ナトリウム」を指すことも多いです。
クエン酸水溶液は酸性ですが、クエン酸三ナトリウムの水溶液は、弱アルカリ性です。
クエン酸分子の3D(立体)モデル
クエン酸の3D分子モデルを掲載しています。JavaScriptが動作する環境で閲覧可能です。
各色の球体はそれぞれ、グレーが炭素原子、赤が酸素原子、白が水素原子を表しています。
マウスのドラッグ操作や、スマホのスワイプ操作で、3次元的に回転できます。マウスのスクロール操作や、スマホのピンチアウト/ピンチイン操作で、分子モデルの拡大・縮小ができます。
比較しやすいように、クエン酸の構造式も貼っておきます。
まとめ・参考文献
クエン酸は、レモンなどの柑橘類に多く含まれる一方、工業的生産も行われています。
有機酸であり、口に入れた時の酸味も、掃除に使う場合の効果も、クエン酸が酸であることに起因します。酸性をもたらす分子の部分構造は、酢に含まれる酢酸と共通です。
クエン酸は、安全かつ安価で、保管もしやすい固体のため、ご家庭でも利用しやすい有機酸といえるでしょう。